テレプレゼンスロボット「temi」を活用した授業の様子
大分県教育委員会は、新しい時代を見据えた高等学校の在り方に係る新たな方針として、令和6年3月に「大分県立高等学校未来創生ビジョン」を策定しました。
これは現在県内にあるすべての学校の魅力向上を目指すもので、個別最適な学びの推進・先端的な学びの実践や、県内のどの地域においても生徒自らの可能性を最大限に伸ばし、多様で質の高い高校教育を提供することを目指し、遠隔授業のシステム構築を含めた環境整備や、教育DXの推進を図ることなどが盛り込まれています注1。
これまでもCOREハイスクール・ネットワーク構想事業など、国の事業を活用し、遠隔授業を推進してきた大分県。生徒数の減少により小規模化が進みつつある地域の高校においては、遠隔授業による習熟度別授業や専門性の向上を目的とした授業が、生徒の学習意欲の向上や教育の質の確保につながっているといいます。
大分県教育庁の釘宮 隆之次長は、遠隔教育の推進について次のように話します。
「生徒数の減少が進むと、教員数も少なくなり、教育の質の担保が困難な状況になります。また、学力層が異なる生徒が同一クラスに在籍するため、生徒は自分に合ったレベルの授業を受けることが難しくなります。遠隔教育などを活用し、より効率的に教育サービスを提供することで、リソースを割くべき層に対しては手厚いサポートを行なうことが可能になるのです。」
釘宮 隆之次長
大分県では遠隔教育の実績をさらに効果的なものとするにあたり、生徒の多様なニーズに応えられるよう「学校間連携方式」と「配信センター方式」の2タイプのシステムを導入されました。
「学校間連携方式」では、商業や福祉など、専門科目を実施する学校から各学校へ遠隔配信を実施。また「配信センター方式」では、令和7年4月に開設された大分県教育庁遠隔教育配信センターから各学校へ習熟度遠隔授業を配信。1授業あたり2校の生徒が参加する合同授業となっています。これは人口減少により小学校から高校までの顔ぶれが変わらないなど、コミュニティの変化が乏しくなる中で、さまざまな仲間と切磋琢磨できるような環境を意図的に作り出しています。この新たなシステムにより、生徒たちは地域の垣根を越えて、難易度の高い授業にもチャレンジすることが可能となりました。
一方で、遠隔授業には課題もあります。教師が生徒の傍に立ち、学習の進度具合に合わせ個別で助言や指導を行なう「机間指導」と呼ばれる学習指導については対応が困難であり、生徒のノートの書き込みやグループ学習の把握についても難しい状況にありました。
そこでリコージャパンは、「配信センター方式」における新たな教育手法(生徒の見取りの手法)として「机間指導用ロボティクス」の実証実験プロジェクトへ参画。教室内を回るテレプレゼンスロボット「temi」を活用することで、遠隔地の教室においても生徒の習熟度を確認することが可能となりました。
また、テレプレゼンスロボットを通じて双方向でのやり取りが可能なため、先生と生徒による直接の質疑応答も可能に。個別に質問が行なえるようになったことで、より理解を深めることができるようになりました。
配信センターの様子
テレプレゼンスロボットを活用した授業について、実際に授業を行なう先生方はこのように話します。
三浦 宏昭主幹「大型モニターを使用する場合、通常であれば後方の生徒は小さく見えてしまいますが、テレプレゼンスロボットであれば画面越しで目と目を合わせて話すことができます。全体では挙手しづらい生徒も、個別であれば気軽に話せます。」
瓜生田 浩司副主幹「生徒にとってはかわいらしい存在のようです。また、質問の際など、テレプレゼンスロボット越しに話していると生徒の表情も柔らかく感じます。」
右:三浦 宏昭主幹、左:瓜生田 浩司副主幹
テレプレゼンスロボットを活用した遠隔授業は、国内でも例が無いため、まだ研究段階にあります。操作面での手間の解消や、他システムとの連携などの課題もありますが、新たな可能性を拓きつつあるようです。
三浦 宏昭主幹「授業において、同時に複数のグループが話している状況では、なかなか状況を追うことは難しいのですが、テレプレゼンスロボットを活用すれば、私もそのグループに入って話ができますので、それぞれのグループに応じて対応を変えることもできます。」
釘宮 隆之次長「昔の授業は先生が一方的に話すスタイルでしたが、今は生徒が主体的に活動し、先生はサポート役として伴走支援を行ないます。そういった場においてもテレプレゼンスロボットを活用することで、個々の対話が可能となるのです。」
生徒へのアンケートでは、テレプレゼンスロボットの活用により「先生が身近にいるように感じる」「緊張感があり、集中力が高まった」といった意見が聞かれました注1。また、テレプレゼンスロボットの活用は「ペア学習の際に話し合いや学びを深めるのに役立つ」「学習意欲の向上につながる」といった意見については79%の生徒が「そう思う」と回答しました注2。遠隔教育やテレプレゼンスロボットの活用推進は、生徒たちにとって大きな刺激となっているようです。
瓜生田 浩司副主幹「授業では『〇〇さんの意見』というように名前を出すのですが、自分たちが持っていない考えを相手側が出すと、いい意味で刺激を受けるようです。お互いに競い合いながら、貴重な経験になっていると感じます。」
釘宮 隆之次長「狭いコミュニティの中ではどうしても自分の立ち位置などが決まってしまいますが、自分よりももっとできる相手がいることで、負けたくない、もっと頑張ろうと刺激を受けることができます。お互いに切磋琢磨しながら、その上で試行錯誤していくことが、教育の本質ではないでしょうか。」
これからもリコージャパンはすべての生徒が平等に質の高い学びを受けられる社会の実現に向け、ソリューションの提供を通じて教育現場の課題解決に貢献してまいります。
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